一流への階段を駆け上がるダニール・トリフォノフのSACDを聴きながら・・・

今日は久しぶりにロシアの若手ピアニスト、ダニール・トリフォノフ君の演奏が聴きたくなり、ショパンコンクール直後にDECCAでデビューした際のアルバムTrifonov Plays Chopinを取り出そうとしたのですけれど、どういう訳か、書斎のCD棚のDECCAコーナーをいくら探しても見つからず。。。そもそもアルバムの実物を手にした記憶が脳内で何となく曖昧・・・おかしいと思ってネット通販での過去の購入記録が全て残っているPCのメールを内部検索してみると、どうやらこれはその昔、楽天レンタルから借りたものだったようで、手元にあったはずの音源はリッピングしたWAVデータだったのでした。

Daniil Trifonov

だがしかし、このCDのリッピングデータは以前HDDが論理クラッシュした際にまとめて飛んだデータ中に含まれていた様で、残念ながら手元にバックアップが見当たらず、これはあらためてCDを購入してライブラリを補完しないといけないですね(T_T) ちなみにTrifonov Plays Chopinの録音では、スタインウェイでは無くFazioliが使われている点も見逃せない部分だったりするのです♪ しかも実はこのイタリアでのライブ録音、ショパンコンクールの半年前に録音されたものだったり。

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無いものは仕方ありませんので、代わりにSACDでチャイコフスキーのピアノ協奏曲のライブ録音に、ソロでショパンやシューベルト/シューマンのリスト編曲による歌曲が収められたSACDを引っ張り出し、今これを書きながらトリフォ君の演奏を聴いています・・・。マリインスキー歌劇場管弦楽団とワレリー・ゲルギエフ指揮の豪華なライブで、来日公演を生で聴かれた幸運な方もいらっしゃると思います♪

と云うのも、ユニバーサルミュージックが今期間限定セールをしているので、今更ですけど2016年に発売されたグラモフォンから出ているリストの超絶技巧練習曲のCDを購入すべきかどうか?実は少しばかり悩んでいたり・・・。

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僕が2010年、第16回のショパンコンクールをリアルタイムで追っていたとき、予選中に一番気に入ったのがダニール・トリフォノフの演奏でした。童顔の大男が頭をかしげながら超絶技巧で繰り出す、アンニュイに耳元でこそばゆく語りかける舌足らずの語り口は、云ってみれば、音楽構築に於ける空間認識がゲシュタルト崩壊を起こしているかの如く危うく聴こえるのですけれど、そこがまた彼の魅力でもあって、特に千鳥足にリズムが揺れるマズルカ Op.56などは絶品♪ 風貌も少し変わっていて、童顔におかっぱ頭で所謂イケメンでは無いのですけれど、ガタイに似合わず演奏の語り口が細々としていて優しく、妙に母性本能を擽る何かがあるのか、実況中も女史方には偉い大人気だったりして、なんかこう、演奏も見た目も込みで、特別な魅力のあるピアニストなのは確かでした。

internal第14回チャイコフスキーコンクール 2011 ダニール・トリフォノフが優勝しました!

ただ、彼の演奏スタイルは現代ピアニストとしての王道を行く堂々とした立体感のある演奏では無く、比較的コンパクトにまとまっている印象で、僕の当時の印象としては演奏品位的に1位を取るのは難しいけれど、ゲニュージャスあたりと争って2位でいけるのでは無いか?と予想をしていて、結局トリフォ君は3位だった訳ですけれど、1位のユリアンナ・アヴデーエワの濃く大人びた解釈は、あの時頭一つ抜けていたのでこの点では妥当だと思っています。2位についてはルーカス・ゲニュージャスはともかく、現地で聴衆受けの良かったインゴルフ・ヴンダーの華やかで表層的な演奏は完全に過大評価だと感じたのですけれども、そのあたりはその後の彼ら、彼女らの演奏家としての舞台の差になって現れていると云えそうです。

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ユリアンナ・アヴデーエワのある意味めんどくさいショパン演奏は、聴き手からすると良くも悪くも何処か生理的にストレスフルなもので、演奏家として専門家内での評価がいくら高かったとしても、肩書きを取り払ったときにエンターテイメントして好き好んで彼女の演奏を聴く聴衆がどれほど居るのか?今後は色々と大変だろうなと当時直ぐに感じたのですけれど、今回の主題はトリフォノフ。当時の印象では、確かに不思議な魅力はあるけれど、ふにゃふにゃと完成度が低く、ピアニッシモからフォルテッシモへのコントラストも狭く、また、一流ピアニストとしてトップスターの道を歩めるような堂々たる性格の演奏では無いと思っていました。

だから、トリフォ君は熱烈な一部のファンに支えられつつ、中小ホールでの演奏会を重ね、着実且つ地味な演奏家人生を歩んでくれたら、こちらとしてもステージ間近でこっそり愉しめそうだと目論んでいたのですけれど、翌年にはチャイコフスキーコンクールで優勝。これ、ショパンコンクールでの3位はある意味不運だったとも云えますし、彼にとってはホームでのコンクールだからこそ、モスクワ音楽院的な意味で諸々の強力なバックアップがあったのだろうと思うけど、結果的にこれでメジャー演奏家としての決定的な箔が付いたのだと云えそうです。

よってその後の軌跡を辿ると、2010年の入賞者から世界中で大人気になったのはダニール・トリフォノフ君の方で、DECCAデビューからグラモフォン移籍と、カーネギーホールでの度重なるコンサート、一流オケーストラに大ホールでのリサイタルと、ここ9年で若手のスターピアニストとして、トリフォ君は僕の意に反しトップクラスの華々しいメジャーピアニストのレールに乗って着々と歩むことになります。

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僕自身は優勝当時、数枚のアルバムを手に入れて以降は熱が冷めてしまい、来日公演にも行かず、しばらくご無沙汰だったりするのでかけれど、ドイッチェグラモフォンに移籍した後の彼の演奏をサンプル音源で聴く限り、ショパンコンクール当時と比べて質的にそんなに変わっているようには聴こえないし、何処か地に足が付いていなくて、件の超絶技巧練習曲他を聴いていても、やっぱり曲目的には本来必要な筈の構造的立体感が飛んでしまい、せっかくの超絶技巧がロシアピアニズムの暴走によるある種のゲシュタルト崩壊を起こしていると思うし、面白いけどこれでいいの!?みたいに感じてしまう部分はあるのです。それもあって、トリフォ君は本質的にグランディオーソな存在感を放つ超一流ピアニストでは無く、どちらかと云うとアットホームでカジュアルな演奏を耳元でこそばゆく囁くタイプだと思うのですけれど、彼、そ、そんなに凄いですか?・・・(滝汗)

で、結局一周回って手元のショパンコンクールでのライブ録音アルバムに戻ると、やっぱりこの時に収録された演奏が一番洗練されていて、若さあふれる爽やかな閃きと甘く蠱惑的な語りかけが綯い交ぜとなり、僕には一番心地良く感じたりする訳です。。。

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ちなみに彼、昨年(2018年)の夏に、在住のニューヨークで自転車に乗っていた際に交通事故に遭ってしまい足首を怪我、演奏活動を暫く休止しているそう。年末にも来日公演予定があったのですが、事故の後遺症がまだあるのかは不明ですけれどもチケットが払い戻しになってしまいました。なんかこう、どうも世界中でキャンセルに繋がるトラブルが絶えないお兄さんだったりするのですけれど、個人的な好みを敢えて云わして貰うとすれば、厄払いにあの髭は剃った方が良いと思っていたり。。。だってあれ、せっかく可愛いのに似合わないですよね?

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