モーツァルト生誕250年記念BOX モーツァルト:ピアノソナタ全集
モーツァルト生誕250年記念BOX モーツァルト:ピアノソナタ全集ピリス(マリア・ジョアオ) モーツァルト

コロムビアミュージックエンタテインメント 2006-03-02
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既に巨匠の域に足を踏み入れつつあるポルトガルのピアニスト マリア・ジョアン・ピレシュ(マリア・ジョアオ・ピリスと呼ばれる事が多い)による、一度目のモーツァルト・ピアノソナタ全曲録音です。DENONのモーツァルト生誕250周年企画盤として再販されましたので取り上げてみました。ADFディスク大賞・エディソン賞受賞盤。ピリス30歳の録音で、なんと1974年に(東京・イイノホール)で収録されたデジタル録音。おそらく市販向けのPCMデジタル録音としては最初期の物ではないでしょうか。現在はリサイタルや録音でヤマハCFSを愛用しているピレシュですが、ライナーノートに拠るとこの当時使用されていたピアノはスタインウェイ。録音はかなり実験的(・・・当時のデジタルですから)なもので、オーディオ的に音質がどうとか、ヤマハスタインウェイの音色が等と云うレベルの音ではない点は予め断っておきます。

私の場合、子供の時分に初めて出会ったモーツァルトのピアノソナタ全集がピリスのこれでした。実に不幸な出会いだったといっておきましょう(汗)。今でこそモーツァルトは大好きなのですが、最初にこんなレコードを学習用に渡されたら、生徒は弾くの嫌いになっても仕方がないと思うのです(爆) なんというか、聴いていて非常にフラトレーションがたまる。乾いてキンキンした音質も不愉快でしたが、極度の内向きな嫌世感とも受け取れる倦怠感の中で、一つ一つのタッチがなにやらおしなべて苦痛に満ちた音色がする。まるでバッハの受難曲を聴かされているような、十字架を背負うキリストの痛みをその内面からえぐり出すかの如き閉塞感で、こんなの全然モーツァルトらしくない・・・と、当時の私は感じていたのですが、レビューをさらってみると驚くことにもの凄く評価が高い。でもそんな世間様の評価とは関係なく、子供のピュアな?感覚で聴いた際、生理的に全く馴染めないモーツァルトの解釈に想えたのでした。


さて、今私が録音当時の彼女と同じ年齢になり、改めてこのディスクを棚から引っ張りでして聴き返してみると、100%否定的な印象しか残らなかった当時とはやはり色々と聞こえ方が違います。深層部分にある潜在的な苦痛やフラストレーションのようなものは今でも感じますが、それは子供の時分に感じたほど強烈ではなく(これは私の感性が鈍ったからでしょう)、むしろそれが演奏家としての強力な個性であり味わいであるかのようにも聞こえます。リスナーとの間に真空の壁をもたらすかの如く非常に繊細でデリカシーに富むニュアンスとピアニッシモの細部にわたる充実した解釈は、むしろピリスというピアニストの非凡さを物語るというか、表面的な技巧と精神世界の中間にある情緒、感情表現に於ける抑揚とアーティキュレーションの魅力・・・深層ではなく目に見える浅層のレベルでの表現力が今の私の心を掴んでしまう感じです。しかしそれは感情という部分に於ける表現力の話で、やはりより深層の精神的な・・・人間性からにじみ出る部分とでもいいましょうか、、、その部分まで掘り下げたとき、何処か何か引っかかる部分がある。
Mozart:Sonatas For Piano & Violin
Mozart:Sonatas For Piano & ViolinWolfgang Amadeus Mozart Maria-João Pires Augustin Dumay

Deutsche Grammophon 1992-02-11
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結局この録音の数年後、ピレシュは具合が悪くなり暫く演奏活動を休止することになるのですが、このモーツァルト/ピアノソナタ全集は休止以前の録音として貴重な反面、グラモフォンでオーギュスタン・デュメイと共に活動している今日の演奏と比べると精神的にまるで別人のようです。演奏家として再起した後の演奏に於いても、生き疲れた如き苦しそうな演奏をする時がたまにありますが、この録音ほど変に内向的な隔絶感を感じさせるものではなく、特に調子の良いときの演奏は、まるでお日様を浴びた洗いざらしの白いシーツを想わせる素朴なタッチで、自信と慈愛に満ちた表現を聴かせます。もう、こんなに小さな女性からどうしてこれだけダイナミックな表現が生まれるのだろう?と本当に不思議というか、只々凄いというか。。。

特に、技術でも感情でもないより深層の部分、精神的な部分での訴求力が、当時と今とでは、彼女の中で何かが大きく変わっている事を強く感じさせられます。リスナーであり、自分自身でもある人間に対する想いが、世俗的な喧噪に対する忌避感が見え隠れするものから、対等に生を分かち合おうとする愛へと変化してきているように・・・これは、基軸にある彼女の宗教観(ポルトガル人なのでカトリックかな?)、神に対する想いみたいなものがあって、それが何かこう、宗教戒律的な枠組みの中に押し込められた孤高のピュアリティから、より生きとし生けるもの全てを包み込む寛容さを伴いつつ真理に近づいた、といったら大袈裟でしようか。少なくとも一人の演奏家として、そういう方向性へ何か彼女の内面的なベクトルが変化したことで、現在のピレシュの演奏からは、一つ一つの音を人の心に深く刻み込むような共感性と独特の詩的で深いタッチが生まれるのではないかと、新旧モーツァルトのソナタ録音を一枚一枚を聞き返しながら想ってみたりするのでした。
Mozart: The Piano SonatasMozart: The Piano Sonatas
Wolfgang Amadeus Mozart Maria-João Pires

Deutsche Grammophon 1992-06-16
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こちらは90年の新録音です。何百回聞き返しても聞き飽きない素晴らしい演奏♪録音品位も大変クリアで美しく、ドイツグラモフォンの面目躍如といったところ。モーツァルト・ピアノソナタに於ける現代解釈のリファレンス盤としても手元に置くに相応しい内容です。現在Amazonでは全集入手不可能みたいですので、ご興味がおありの方はHMVで注文可能です。

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