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ヤマハによるベーゼンドルファー買収について。

boesendorferimperial今更ですが、昨年末ブログを再開するちっょと前に話題になったニュースです。オーストリアの名門ピアノメーカー”Boesendorfer(Bösendorfer)“をヤマハが買収。ブロッドマンという名前だけオーストリアブランドの中身は中国企業(100%中国製ピアノメーカー)と争っていたわけですが、結局ヤマハに決定という形になりました。

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ヤマハ、世界的ピアノ会社買収 ベーゼンドルファー
2007年12月20日23時46分

 世界的な高級ピアノメーカー、オーストリアのベーゼンドルファー社の全株をヤマハ(浜松市)に売却する契約が20日結ばれた。株を保有する地元銀行が発表した。売却金額は公表していないが、地元紙によると1400万ユーロ(約23億円)という。ヤマハは名門ブランド買収で、高級ピアノ市場への浸透を図る考え。

ベーゼンドルファー社は1828年創業。米スタインウェイ、独ベヒシュタインとともに世界3大ピアノメーカーに数えられ、作曲家リストらに愛された。製造台数は年300台余。平均価格は1台6万ユーロ(約1000万円)だが、日本でも根強い人気がある。

一時、米企業の手にあったが、02年にオーストリアの銀行グループに買い戻され、現在は米大手投資ファンドのサーベラス・キャピタル・マネジメントの傘下にある。近年は販売台数が低下、累積赤字が800万ユーロ(約13億円)近くにのぼり、経営難が続いていた。

買収はベーゼンドルファーの営業部長らが独立して約3年前に設立した地元ピアノメーカー、ブロドマン社との争いになったが、ヤマハはオーストリア国内の工場を存続させ、ブランドを維持することを約束するなど、好条件を示した。

 ヤマハの梅村充社長は21日、日本経済新聞社とのインタビューで、オーストリアの名門ピアノメーカー、ベーゼンドルファーの買収について「4年で単年度黒字、10年以上かけて累積損失を回収したい」との見通しを明らかにした。米国市場を特に有望視しており、「ベーゼンドルファーのピアノにヤマハの自動演奏機能を組み合わせて2年後の発売を目指す」と今後の戦略を語った。
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日本では買収という言葉にネガティブなイメージがありますし、良くも悪くもヤマハが買収という事で、ある種の不安というか、国内外からふざけるな的な反応も多く見られます。1/17日付の読売新聞の記事には、ヤマハによる買収についてオーストリア人指揮者のニコラウス・アーノンクールや、ウィーン在住ピアニスト(チェコ生まれ)のルドルフ・ブッフビンダーの反対表明があったことが書かれていますが、pastel_piano的にはここは敢えてポジティブに捉えたいと思います。

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まず、商売っ気丸出しの中国メーカーブロッドマン(Brodmann)に買収されるよりはるかにいい。もしあちらさんに決定していたら、程なく名前だけベーゼンドルファーの、大量生産中国製安物ピアノが世界を席巻することになりかねない、というかなります。株式譲渡に於いては、買収金額以前に中国系ブロッドマンよりも日本人のヤマハの方が、ウィーンの魂、ベーゼンドルファーの伝統とアイデンティティを理解しリスペクトしている、尊重できると判断されたのではないでしょうか。

ベーゼンドルファーを好んで使う日本人ピアニストで好きなのが藤原由紀乃先生。解釈も見事ですがショパンのエチュードは特に音質も凄いです。

次に、ヤマハが現地の生産体制や雇用を従来通りに保証していること。ウィーンの音、伝統文化を守りたいと明言していること。ベーゼンが資本的にヤマハの傘下に入ることで、結果として従来のクラフトマンシップ、ピアノ作りにまで口出しをされたらたまったものでは無いですが、たぶん、賢明なヤマハの中の人達はそうはしないと思います。はっきり言って従来の伝統的な製造方法ではビジネス的な赤字は解消しませんし、かといってピアノの単価をべらぼうに高くするわけにも行かないと思います(既にべらぼうに高いですので…)。とはいえ、従来通りの製造方法をちょっとでも変えるというのは、ほぼ100%致命的な品質低下を招くことを意味しますから、そんなことをしたら世界中の音楽家、音楽ファンから白い目で見られ、ヤマハブランド自体に消すことの出来ない傷を付けてしまうことになる筈です。このことが解らないような勘違い日本人がプロジェクトに関わらないことは切に願います。

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クラシック音楽のBösendorfer弾きとして特に有名な世界的にピアニストを挙げると、個人的に一番身近なのはアンドラーシュ・シフ。特に近年のECM盤は音質含めて参考になります。そして昔の人ではウィルヘルム・バックハウス。バックハウスはベードヴェンのピアノソナタ全集が学生時代からの愛聴盤です。他にはオーストリア人のパウル・バドゥラ=スコダイェルク・デームスフリードリッヒ・グルダが有名。ただ有名なグルダのに関しては自然なベーゼンドルファーと云うよりはグルダ色の音色って感じですけれども。。。ジャズではオスカー・ピーターソンがベーゼン弾きとして知られています。

可能性その1。思うに、ヤマハはブランド広告価値としてのベーゼンドルファーを25億円で買い取った訳で、ブランド維持で発生する製造上の構造的な赤字にはある程度目を瞑るのじゃないかなぁと。完全手作業での年間生産台数300台、従業員数180名の小規模ピアノメーカーと、年間生産台数10万台、従業員数5000名(連結規模では2万名)で世界最大の楽器メーカー(加えて総合電子機器メーカー)であるヤマハとでは企業規模が違いすぎ、ベーゼンドルファー単体の黒字も赤字もヤマハにとっては僅かなものでしかありません。黒字を目指すとしても、ピアノ本体以外の販売オプションを加えたり、販売方法のテコ入れ、或いは世界規模でのヤマハ製ピアノとの販売網の提携という形での黒字化を狙うのではと考えます。真っ先にベーゼンドルファーにヤマハの自動演奏機能を乗せるなどの案が出ていますが、まぁこれはピアノが何か変わるわけでなく、ヤマハの既存の自動演奏装置をベーゼンドルファーで使える仕様にするという意味でしょうから、アクションがイヤなら外せるということでネガティブな問題は少ないはずです。

可能性その2。日本全国そして欧米のヤマハ音楽教室やショールームにベーゼンドルファーが置かれる、かもしれない(汗)。少なくとも販売規模の大きな一部の基幹ショールームには、展示ピアノのフラッグシップとしてベーゼンドルファーの小型グランドピアノや世界最高のメカニズムを誇る豪華なアップライトピアノピアノ”Model 130CL”が置かれることになるかも知れません。従来はヤマハのピアノしか扱わなかった為に、生徒さん達も多くがヤマハ若しくはカワイの音色やタッチしか知らない状況なわけですから、子供達に試弾や発表会等でベーゼンドルファーの音に触れる機会があるというだけでも大きな進歩です。

可能性その3。ベーゼンドルファーの社内秘であるピアノ製作ノウハウの一部がヤマハに流れ、将来作られるヤマハのグランドピアノの音質が改善するかもしれない。従来もベーゼンやスタインウェイをバラしてアイデアを模倣したり、コンピューター解析したりしてきたと思うので、今更それほどの違いにはならないかも知れませんが、それでも器用な日本人のことですから、研修やら交流やらでヤマハのピアノに応用できる何らか要素を見つけ、結果的にヤマハピアノの音色や製造品質の向上に繋がる可能性はあります。

可能性その4。アメリカスタインウェイの技術と設計により、第2ブランドとしてカワイが製造する低価格グランドピアノ、ボストンピアノ(Boston)のように、ヤマハがベーゼンドルファーの設計による廉価版の第2ブランドを立ち上げ、日本国内で生産する。まぁBostonも賛否両論あると思いますが、ボストンが発売されたときに私は、プアマンズ・スタインウェイとして、これで苦学生がヤマハから解放されると大喜びしたくちです。ボストンと同様に第2ブランドが成功するかどうかは、部品品質やヤマハの関わり方、限られたコストで新規のピアノ設計にどの程度ベーゼンドルファーのノウハウが生かせるかなど未知数ですが、少なくとも中国で大量生産されるよりなんぼかマシではないかと思います。

可能性その5。ヤマハは電子楽器、特にデジタルピアノの市場でクラビノーバが常に業界をリードしてきた訳ですが、他メーカーのデジタルピアノの追従を許さない多階調のサンプリング技術や自社製半導体による複雑なDSP、ピュアオーディオやスタジオ用機器で養ったアンプやスピーカーの製造技術があるにも拘わらず、いかんせん、従来クラビノーバのサンプリング音源は同社のフラッグシップピアノ、ヤマハCFⅢSに限られていました。個人的に、音源ピアノ1はCFⅢ(S)で良いとして、もしピアノ2の音源がスタインウェイのサンプリング音源だった最強なのになぁ…なんて潜在的に不満を感じたりしていた訳ですが、ベーゼンドルファーを傘下に収めたことで、クラビノーバ上位モデルのサンプリング音源に、ベーゼンドルファーインペリアルが加わるとしたら、どれだけ大きなセールスポイントとなることでしょう。もしこれが実現したら、デジタルピアノでの演奏をこよなく愛する私的には狂気乱舞してしまいます♪てか、そのクラビノーバ絶対買う!※後日注:実現しました。

CLP-675/CLP-775。自宅で使っているクラビノーバにはYAMAHACFXの他にベーゼンドルファーインペリアルのサンプリング音源が使われています。

可能性その6。2004年、ベーゼンドルファーが何をトチ狂ったのかその木工技術、製造技術を生かしてピュアオーディオ市場に参入し、ホーンレゾネーター式と同社が呼ぶ、ハイエンド向けのトールボーイ型スピーカー3モデル「Boesendorfer VC-1/VC-2/VC-7」を発売したのは記憶に新しいところです。※後日注:Bösendorferブランドでデビューしたハイエンドスピーカーの名称は、2005年以降Brodmann Acousticsに引き継がれ、Brodmann Vienna 「ブロードマン」に名称変更されました。

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ピュアオーディオもピアノ作りに負けず劣らず儲からない産業ですので、これでベーゼンがどうにかなったとはとても思えませんが、どうせならヤマハと組んでもう少し低価格で小型のスピーカーや、ベーゼンドルファーブランドのアンプだのSACDプレーヤーだのを作ってしまい、TEACのハイエンドラインナップがESOTERIC(エソテリック)iconであるように、ヤマハのハイエンドオーディオにベーゼンドルファーシリーズがあっても良いかも知れません…。。もちろん音作りはオーストリア人に任せる方向で…( ੭ ・ᴗ・ )੭♡。

とまぁ、個人的な妄想を書き連ねてみましたが、世界の重要文化財に等しいピアノメーカーが倒産して悲しむよりは、ヤマハの資本力によって現状維持が保証されたのだとポジティブに捉えています。オーディオ関係の最後の可能性はともかく、この中でいくつかは将来的に実現するんじゃないかと思っています。ヤマハによる株式買収が、お互いのブランドの将来にとって良い方向へ働くことを願いつつ、今後の動向を期待して見守っていきたいと思いますm(__)m

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