2013年7/3日、NHK-FMベストオブクラシックで放送(再)された、2012年4/17東京・紀尾井ホールで行われた、インゴルフ・ヴンダー、ピアノリサイタルの感想です。

インゴルフ・ヴンダーインゴルフ・ヴンダー"Ingolf Wunder"はオーストリアの若手ピアニスト。収録時で26歳。2010年の第16回ショパンコンクールで2位タイ(ロシア/リトアニアのルーカス・ゲニューシャス"Lukas Geniušas "と同率2位。尚、1位はロシアのユリアンナ・アヴデーエワ)

ヴンダーは豊潤に粒立つ極めて明るい音色が特徴で、コンクールの際に最も聴衆ウケしたピアニストです。(私個人は3位だったロシアのダニィル・トリフォノフ君の変態演奏の方にメロメロでしたが・・・) その贔屓もあって、正直に言うと私のヴンダー君への評価については、2010年ショパンコンクール当時は"やや冷めた"ものでした。便利なネット配信もあってほぼリアルタイムで比較しつつ、結果にはとあるハラシェ・・・ポーランドな先生方の審査に色々と文句たらたらみたいな(^^; それでも2010年のショパンコンクールについては、ダン・タイ・ソン先生と審査委員長のアルゲリッチ先生の評価については一貫して妥当だったと思っています。

インゴルフ・ヴンダーの場合、コンクールでは所謂若さという表面的な解釈と、解釈がプラス方向にしか向かない平面的な演奏が気になったのですが、冷静になってみれば、競う相手が悪すぎた(レベルが高かった)からなのかも知れません。相手がロシアンメソッドで内面的表現をより得意にするユリアンナ・アヴデーエワやダニィル・トリフォノフ、ルーカス・ゲニューシャスになってしまうと、どうしても、ヴンダー君の音楽を探究するレベルが、聴衆受け狙いのパフォーマンス優先に聞こえてしまったんですね。

でも現に生で聴いていた聴衆、しかも日本のミーハー聴衆とは異なり、耳の肥えたポーランドの現地民に加えて、世界中から集まったクラシック音楽のエンスージアスト達からのスタンディングオベーションですから、スピーカー越しでの印象はともかく、生演奏では映える、とても良く聞こえるって事なんだと思います。(逆に録音映えする割には生演奏が全然つまらない演奏家も沢山いますので。) そういやヴンダーはオーストリア出身ですから、うちのリビングのスピーカーVienna Acousticsは、弱音の優しい柔らかさと右手方向の華やかさなど、割と再生に向いているような気がします、なんて(笑) でもフリードリヒ・グルダにはイマイチ向いてないのだw

ヴンダーのショパンは・・・フランス的な曲線美では無く、ゲルマン系らしい楷書体の弾き方でしたので、どちらかと云えばドイツ音楽向きの弾き方では無いかしら〜?なんてコンクールでは感じました。母国オーストリアのモーツァルトはいわんや、ベートーヴェンとかシューベルトとかが良さそう。そういやヴンダー君、元々はヴァイオリン専攻で、14歳の時にピアノへ転向したそうです。ある程度の歳になってピアノから他の楽器への転向はいくらでもありますが、逆パターンは相当に珍しいです。というかこの部分だけ逸話として切り取ったら普通は不可能に近い。でもたぶん、真相はピアノもバイオリンの為に補助的に当然習っていて、幼少の時分からピアノも結構上手に弾けてたんでしょうね。

さて、話を戻して放送の批評です。今回はNHK-FMベスト・オブ・クラシックの音源です。2012/7/19放送分ですが、2013/7/3に再放送を聴きました。これ、昨年BSクラシック倶楽部でも映像付きで放送されていたらしいのですが、生憎と録画を逃しておりますので、実際見た目でどんな弾き方をしていたのかは判りかねます。割と低いテンションで再放送求む〜なんて書いてみる。(再放送ばかりのクラシック倶楽部ですので、きっといつか再放送されるのだw)

※「ピアノ・ソナタ13番 変ロ長調 K.333」モーツァルト作曲

オーストリア人の演奏する本場のモーツァルトです。ショパンコンクールの時の印象から、も っと表面的解釈でカッチリした弾き方なのかと思いきや、意外とデリケートな表現力もあっ てそこそこニュアンス豊か。リサイタルの弾き始めの曲だったからか、案外簡単な細かいトリルや装飾音が不安定な模様(-_-;)。。。だがそれがむしろソフトで良いのかも。 フォルテになった時の華麗なグランドダイナミズムと相反した優しい感じがして、ルールに囚われた印象を適度に崩してくれている。音色が明るく粒が揃っていて魅力的なのもあって、これは良い意味で優しく明るい演奏です。将来、モーツァルトのピアノソナタ集が出たら嬉しいかも♪

※「超絶技巧練習曲から 第11曲 夕べの調べ」リスト作曲
なんか・・・途中で飽きました(爆)


※「ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 作品58」ショパン作曲

ショパン・コンクールの第3次予選で弾かれる曲。今回の紀尾井ホールでのリサイタルでは、ほんの僅かに出だしのテンポが遅いというか、なんか思ったよりぼんやりとかったるい印象。このソナタに必要な、リッチなエレガンスと不安の陰が織りなす明確なコントラスト・・・キレ味が足りない。音色は明るく豊潤で魅力的なのですが、演奏時の精神的なコンディションがイマイチだったのかな・・・ちょっと悪酔いしそう。

ショパンコンクールの際に気になった棒読み感はやっぱり今回も感じます。彼の場合決して強弱表現が単純に棒読みという訳では無いのですが、どこか音の芯と曲の流れのテンションが終始一貫して平坦な感じで重心も高め。それがショパンのように自由な呼吸・・・テンポ・ルバートを要求される場合には、作為的な違和感として感じられたりします。今回のように全体が半端にアンニュイな方向になっちゃうくらいでしたら、ヴンダー君に限っては、むしろ徹底的に聴衆に媚びた形の分かりやすい表面的なピアニズムに割り切った方がむしろ潔いかも。

※「アンダンテ・スピアナートと華麗な大ポロネーズ ショパン作曲

アンダンテ・スピアナート・・・歩く速さで滑らかに(安らかに)・・・なのですが、最初っから左手のアルペジオがカクカクだぁ・・・。これだけカクカク弾くのは逆に難しいですよぉ(爆)。これがゲルマン的ショパンか。ちなみに右手はなかなか求心力があって素敵です♪ 後半のグランド・ポロネーズ・ブリランテ・・・これも入りからしてちょっと遅い。もう少し前奏部とはピアニッシモからフォルテッシモまでの音量的なコントラストがあっても良いと思うのですが。というか全体的に切れ味が足りないというか、だらだらとした解釈かも。

※「風変わりな踊り」 ホロヴィッツ作曲

アンコール。本家ホロヴッィツの演奏に比べて、やっぱりダイナミックレンジ(ピアニッシモとフォルテッシモ迄の振幅)が相当に狭い上に切れ味も無いです。加えてニュアンスに流れた甘い演奏。とても踊ってる感じじゃない。これはまだ弾かない方が良い気がしたり。

おまけ♪

※「幻想ポロネーズ 変イ長調 作品61」ショパン作曲

NHKの放送時間が余ったので、最後にCDを紹介しますって流れのいつものステマ放送枠ですが、例によって余ってないよw 当日アンコール演奏されたモシュコフスキー"火花"とかスクリャービンの練習曲作品8-12とか、まるっと削ってるわよ(−_−;)
 
→輸入盤はこちら※TOWER RECORDSChopin Recital

気を取り直し、コンクールのご褒美でDGと契約したデビューCDの演奏を、襟を正してFMチューナー越しに聴いてみます。このCD、当時買おうと思いつつ躊躇してたら2年過ぎてしまってます・・・orz そ〜ゆ〜ことで、このチャンスにFM音質でまるっと試聴してみるテスト♪

冒頭の和音と上に昇っていく出たしの旋律から和音の響きからして非常にハイクオリティです。これぞ正しく幻想ポロネーズ。幻想的な響きを上手にコントロールしつつ、楷書的・構築的に演奏されていて、やはりコンクール直後は来日時と洗練度が全く違っています。この曲は適度にカクカクしていてもそれで良いんです。ダイナミクスも十二分に広いし、弱音部も優しく且つ抑制が利いています。構築的な完成度が高いのに決して冷徹にはなっていない。曖昧さやアンニュイさが先行していた紀尾井ホールでのリサイタル演奏より、ずっとクッキリ、スッキリしています。お世辞抜きに、ほぼ突っ込みどころ無いくらい上手い演奏です。

このCDには他に、今回のリサイタルでも演奏された、アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズと、ピアノ・ソナタ第3番が収録されていますが、Chopin Recital MP3試聴音源を聴いた感じでは、リサイタルでの印象と違い、どちらも崩れずにハイレベルな完成度を感じさせます。その中でも幻想ポロネーズは、彼の音楽的なキャラクターに最もマッチしている印象。ドイツ・グラモフォンのクリアな録音クオリティも相まって、コンクールの歴史資料を兼ねる意味でも、初期盤があるうちに1枚、わっちのぁ ゃι ぃ書斎のレコード棚にも所蔵しておきたいところかな?(^^)ゝ

Chopin Recital [Analog]
同じ音源で2枚組みアナログLP盤も出ていたり。TOWER RECORDS

ちなみにインゴルフ・ヴンダー君、ショパン・コンクールの際には、この幻想ポロネーズの演奏の素晴らしさから、副賞として特設の幻想ポロネーズ賞を受賞しております。それと、冒頭で一番聴衆に最も受けた(本選で唯一、スタンディング オベーションでした。)と書いた通り、コンチェルト賞も合わせて取っています。なんかでも、DGのこの録音の方が、来日公演のライブ演奏より映えてるような気がするのは私だけかしらん?


最初のデビュー盤が彼の人生の最高傑作にならないと良いんですけれども・・・。とりあえず、DG2枚目のアルバム「300」の収録曲は、今回演奏されたモーツァルトのピアノソナタK333も含まれています。MP3サンプルを聴いた感じ、前作より音がマッタリしてる。モーツァルトのソナタ以外はアンコール向けのニッチな技巧派小品を集めた感じですが、1枚目の折り目正しいアルバムよりも来日演奏でのアンニュイな崩し方に近いかもです。

ここで検索していて見つけた、というか冒頭でもリンクしたインゴルフ・ヴンダー本人の公式ページで見つけたのですが、15回ショパンコンクールで予選落ちした2005年の翌年、オーストリアのマイナーレーベルORFからCDを出していたみたいです。これが本当のデビュー盤。まだ二十歳そこそこの若き演奏ですが、ORFの公式試聴音源を聴いた感じでは、ショパンらしいナチュラルなアゴーギクに疾走感もあるし華やかさもあるし、DGでの2枚よりずっと気持ち良いような?(滝汗)。私が大人の完成度よりも若い人のピュアな演奏を好むってのもあるかもですが、ORF盤の演奏でしたらまごう事なき天才に聴こえます。これ、ヴンダーのファンなら必ず入手すべき1枚かもですよ!?


《2014/6/18日追記》
この日の収録演奏が、NHK-BSのクラシック倶楽部で今さっき再放送しておりました。2012年ですからもう2年も前なんですね。映像付きで観ると色々突っ込みどころ満載で、大きな手で乱暴に叩き付けるようなフォルテ。ミスタッチも多く、音楽解釈も細部が雑且つデタラメ上等で、かなりどうしようもない演奏。アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズなど、フレーズがぶつぶつ寸断されまくり。ずっこけまくりながらイライラした。当日調子が悪かったのかも知れませんが、どうしてこんなになっちゃったのだろうと。。。未だ若いんですから色々あるとは思いますけれども、良い方向に復活してくれると良いなぁ。
《Update 2014/7/04》
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